感染症検査統計情報サービス
2012/1   感染症検査統計情報について ご利用にあたって サイトマップ
 


 
りんご病、特に妊婦はご用心!!
 
-目次-
 伝染性紅斑・感染症発生動向調査
 全国の医療機関から弊社に依頼されたPB19抗体と遺伝子の検出状況
   ○PB19IgM抗体、指数別陽性数と陽性率の推移
   ○女性を年齢群別でみたPB19IgM抗体陽性率の推移
   ○産婦人科由来検体でのPB19IgM抗体およびDNAの陽性数、陽性率の推移
 今後の注意点
 検査受託要綱
 検査Q&A
 お問い合わせはこちらまで



 伝染性紅斑
 

伝染性紅斑は、ヒトパルボウイルスB19を病原体とし、4~5歳の幼児を中心に幼児、学童に好発する流行性の発疹性疾患です。典型例では両頬がリンゴのように赤くなることから「リンゴ病」と呼ばれることもありますが、本症の周辺には多くの非定型例や不顕性感染例があること、また多彩な臨床像があることなども明らかになってきています。
成人では両頬の蝶形紅斑は少なく、その一方、合併症である関節痛・関節炎の頻度は小児では約10%以下といわれていますが、成人男性では約30%、成人女性では約60%と高率です。また、妊婦が感染すると、胎児水腫や流産の可能性があります。妊娠前半期の方がより危険性が高いですが、後半期にも胎児感染は生じるとの報告もあります。なお、先天性風しん症候群のように、妊婦が伝染性紅斑の原因ウイルスであるヒトパルボウイルスB19に感染したことにより、先天奇形をもった児が出産されたとの報告はこれまでにありません。その他、溶血性貧血患者が感染した場合の貧血発作を引き起こすことがあり、他にも血小板減少症、顆粒球減少症、血球貪食症候群等の稀ではあるが重篤な合併症が知られています



 感染症発生動向調査
 

伝染性紅斑の報告数は例年夏季に増加し、第26週または第27週前後がピークとなることが多くなっています。伝染性紅斑は1982年よりその発生動向の調査が開始されていますが、これまで流行のピークが高く、比較的大きな流行となったのは、1987年、1992年、1997年(感染症情報センターホームページ:http://idsc.nih.go.jp/iasr/19/217/graph/f2171j.gif 参照)、そして2000年以降では2001年、2007年であり、ほぼ4~6年ごとの周期で大きな流行時期を迎えています。2008~2009年の報告数は減少し、夏季の流行のピークも定かではない状態が続いていましたが、その後2010年の報告数は前年よりも増加し、特に秋季以降は例年よりも高い水準となり、2011年に入ってその高い水準を保ったまま現在まで継続しています。2011年第25週の伝染性紅斑の定点当たり報告数は1.47(報告数4,618)となり、前週の報告数(定点当たり報告数0.96)よりも大きく増加しました。伝染性紅斑の定点当たり報告数が1.4を上回ったのは1992年以来です。

 

 

   
 

年齢群別割合をみると、4~5歳が31.6%と最多であり、次いで6~7歳(25.0%)、2~3歳(17.1%)、8~9歳(13.3%)の順となっており、7歳までで全報告数の75%以上を、9歳以下で90%以上を占めているのは例年と同様です。
2011年の伝染性紅斑の流行は、例年よりも大きな流行となり、現在そのピークを迎えつつあるものと推測されます。しかし、伝染性紅斑は多彩な臨床像を呈する疾患であり、診断されているのは感染者の中の一部に過ぎず、実際にはより多くの者が本疾患の病原体であるヒトパルボウイルスB19に感染している可能性があります。また、伝染性紅斑は紅斑や発疹が出現して臨床的に診断が容易になる前に周囲への感染性があることより、その感染対策は困難であると言わざるを得ません。現在、国内の保育園、幼稚園、小学校等の小児の集団生活施設では、本疾患が流行しているところも少なくないと思われますが、その場合流行が収束するまでの間、妊婦等が施設内に立ち入ることを制限することを考慮すべきです。

   
 

出典: 国立感染症研究所感染症情報センター感染症発生動向調査感染症週報 2011年第25週(6月20日~6月26日):通巻第13巻第25号 注目すべき感染症 伝染性紅斑より抜粋




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 全国の医療機関から弊社に依頼されたPB19抗体と遺伝子の検出状況
    -1998年からの集計結果と近年の傾向-(第43回日本小児感染症学会弊社発表資料より)
 

弊社は1988年より全国から、感染症検査の依頼を受けて報告した一部の項目の結果を、データベース化し、集計、開示しています。今回、PB19(ヒトパルボウイルスB1)の感染動向をみるために、1998年以降の検査結果を集計しました。調査対象期間は1998年1月から2011年8月の13年8ヶ月間です。集計の対象とした検査項目は弊社に依頼のあったEIA法を用いたPB19IgM抗体(急性期に出現する抗体)およびPB19DNAの検出としました。

IgM抗体検査は”ウイルス抗体EIA「生研」パルボIgG、IgM;デンカ生研株式会社”の検査試薬を、PB19DNAの検出はPCR法により、非構造蛋白質領域を増幅、検出する、J.Sセーバルらの報告した方法を用いました。1)
 

  1)J.Sanders Sevall(1990);Detection of parvovirus B19 by dot-blot and polymerase chain reaction;Molecular and Cellular Probe.237-246
 PB19IgM抗体指数別陽性数と陽性率の推移
  PB19IgM抗体が陽性(1.0以上)となった検体を抗体指数別 (1.0~2.0未満、2.0~4.0未満、4.0~8.0未満、8.0以上)に色分けして棒グラフに示しました。赤色の折れ線グラフはPB19IgM抗体の陽性率を示しています。1998年から2007年までのPB19IgM抗体の陽性数および陽性率は周期的に推移していましたが、2007年6月より急激に下降し、周期的な変動はみられるものの低い水準が2010年春頃まで続いています。その後、2010年夏頃より急激な上昇が認められ、2011年6月の陽性率は30.5%まで上昇しました。2011年におけるPB19IgM抗体の陽性数は1998年以降、最多となりました(図1)。

さらに同集団を男女別に5つの年齢群 (1-5歳、6-10歳、11-15歳、16-20歳、21歳以上)に分け集計しました。陽性率を赤色の折れ線グラフで、陽性数を棒グラフに示しました。21歳以上の年齢群では検査数のスケールが他の年齢群の150倍となっています。結果として、2011年の陽性数は、男女共に、全年齢群で1998年以降最多となりました。陽性数は男女ともに21歳以上で高い結果となりました (図2)。
この中で、特に注目したのは、青のラインで囲んだ期間の21歳以上の女性の陽性数です。そこで、
この年齢群を含む16歳以上の女性を対象に集計しました。

 

図1.PB19IgM抗体指数別陽性数と陽性率の推移

 

   
  図2.PB19IgM抗体指数別陽性数と陽性率の推移(性別、年齢群別)

 年齢群別でみたPB19IgM抗体陽性率の推移(女性)
  年齢の記載のあった2007年1月から2011年8月まで の52,111件を対象に、16歳から50歳までを16-20歳、21-30歳、31-40歳、41-50歳と50歳以上の5つの年齢群に分け、PB19IgM抗体の陽性率を集計しました。陽性率の最も高かったのは41歳から50歳の年齢群でしたが、 陽性数が最も多かったのは31歳から40歳の年齢群でした(図3、図4)。

図4の円グラフは20106月~2011年8月を対象期間とした各年齢群における陽性数の占める割合
 
図3.PB19IgM抗体陽性率の推移(女性、年齢群別)

 



図4.PB19IgM抗体陽性における年齢群別の割合
(20106月~2011年8月

 

 

 産婦人科由来検体でのPB19IgM抗体およびDNAの陽性数、陽性率の推移
  図5、6は診療科欄に”産婦人科”等の記載のあった検体を対象に集計したグラフです。図5はPB19IgM抗体の陽性数と陽性率の推移 で棒グラフが陽性数、赤色の折れ線グラフが陽性率です。図6はPB19DNAの陽性数と陽性率の推移で、1年ごとの陽性数と陽性率を示しました。両項目ともに2010年夏頃から陽性数および陽性率の増加が認められます。2011年のPB19DNAの陽性率は48.5%と高い値を示しました 。
   
   
図5.PB19IgM抗体陽性数、陽性率の推移(産婦人科由来検体)
   
 
図6.PB19DNA陽性数、陽性率の推移(産婦人科由来検体)
 

   

 今後の注意点
 

PB19感染症(伝染性紅斑)は厚生労働省・国立感染症研究所感染症情報センターが実施している小児科定点疾患としての感染症発生動向調査であるため、成人における発生状況の詳細は不明です。今回の弊社の集計結果から、成人における陽性数,陽性率が、近年増加傾向にあることがわかりました。本感染症は特に妊婦が感染すると胎児水腫や流産の危険性が高まることから、今後の発生動向に注意が必要です。

 


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 検査受託要綱
  検査には抗体検査、遺伝子検査があります。
 
  抗体測定検査
     ヒトパルボウイルスB19 IgM (EIA)  ヒトパルボウイルスB19 IgG (EIA) 
    遺伝子検査
   ヒトパルボウイルスB19DNA(PCR)


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 検査Q&A
  ヒトパルボウイルスB19の感染が疑われる時の注意事項は?

 

   

成人のヒトパルボウイルスB19感染においては症状が非典型的であるため、他の発疹性ウイルス感染症との鑑別が難しい場合があります。 ヒトパルボウイルスB19感染であっても麻疹IgM抗体が陽性を示すことがありますので、注意が必要となります。

     
 

ヒトパルボウイルスB19感染後の抗体の推移について教えてください。

 

    ヒトパルボウイルスB19感染と伝染性紅斑の経過についてはAndersonらによる感染実験1)に報告されています。 ヒトパルボウイルスB19抗体陰性の健康成人にヒトパルボウイルスB19粒子を経鼻的に接種したところ、接種1週間後にウイルス血症、発熱、倦怠感等の症状出現と気道から ヒトパルボウイルスB19DNAの排泄を認めています。
この時期に伝染性紅斑と診断するのは困難で、このことが予防対策上の非常に難しい要因となっています。紅斑などの特徴的な症状が現れる時期には、ウイルス血症は既に終わっておりほとんど感染力はありません。抗体の推移としては接種10日目頃よりIgM抗体が上昇し、その数日後からIgG抗体が上昇しています。
2)
      参考文献
   1)Anderson MJ et al:Experimental parvovirus infection in humans.J Inf Dis 152:257,1985
   2)岡部信彦;ウイルス性発疹症 伝染性紅斑 最近の問題点;小児科診療1997.11(137)
     
  ヒトパルボウイルスB19の感染診断に一般的に用いられる検査はどの検査ですか?DNA検査は、どのような場合に行えばいいでしょうか?また、DNA検査に最適な臨床材料は何でしょうか?
 
    診断は、血清を用いた抗体検査(IgG、IgM抗体)が一般的です。
ヒトパルボウイルスB19は、適切な細胞培養系がなく分離培養は困難です。ウイルスを直接検出するには遺伝子増幅法(PCR法等)が有用です。この場合、最適な検査材料は血清です。
 

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