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妊婦健康診査におけるヒト白血病ウイルス-1型(HTLV-1)抗体検査の実施について
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平成22年11月1日付け、雇児母発1101第1号、厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長名で各都道府県、政令市、特別区宛に「妊婦健康診査におけるヒト白血病ウイルス-1型(HTLV-1)抗体検査の実施について」が通知されました。
通知内容は、成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia:ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HTLV-1 associated myelopathy:HAM)の原因であるHTLV-1については
1.主な感染経路が母乳等を介した母子感染であること.。
2.母乳の授乳期間が長くなれば児のHTLV-1感染率が上昇することが指摘されていること。
そのため、妊娠期においてHTLV-1感染の有無を調べ、この結果に応じた母子感染予防対策を実施することが必要であり、各都道府県におかれては、安心して妊娠・出産ができる体制を確保するため、妊婦健康診査においてHTLV-1抗体検査を実施する等積極的な取組が図られるよう、周知徹底をお願いする。というものでした。
そして妊婦に対してHTLV-1母子感染に関する正しい知識を普及させるとともに、妊婦が自身のHTLV-1感染の状況を認識し、必要に応じて事後の保健指導等を受け、HTLV-1の母乳を介した感染の危険性を低減することにより、母子感染の防止を図ることが目的とされています。 |
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HTLV-1とは
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HTLV-1はC型レトロウイルスと呼ばれるウイルスで、主にTリンパ球へ感染し、細胞のゲノムにウイルス遺伝子が組み込まれ、プロウイルスとして感染細胞中に長期にわたり存在・維持されます(持続感染)。
感染者の末梢血中には感染リンパ球は存在しますが、ウイルス粒子の産生は極めて低レベルであり、B型肝炎ウイルスなどと異なり、血清(血漿)中にはほとんどウイルスを検出できません。
このため通常、HTLV-1キャリアの診断はウイルスの検出ではなく、HTLV-1に対する抗体の検出によって行われます。
一度感染した方から自然にHTLV-1が消失することはないと考えられており、終生感染が持続します。HTLV-1感染が原因となって発症する疾患としては、ATL、HAM、HTLV-1ぶどう膜炎(HU)、その他HTLV-1感染に関わるいくつかの病態などが知られています。しかしキャリアのうち実際に発症するのはごく
一部(5%程度)であり、大半の方は症状無く過ごされます(無症候性キャリア)。 |
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HTLV-1感染状況
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HTLV-1は、1980年代には西南曰本に偏在する感染症(推定感染者数120万人、ATL患者700人/年間)であり、いずれは急速に減少するという認識が一般的でありました。しかし人□の高齢化に伴いATL患者数はむしろ増加傾向(年間1000人超)にあります。また2009年に行われた厚生労働科学研究費補助金研究事業研究班の調査により、HTLV-1キャリアは大都市圏にも拡散しており、推定感染者数も108万人前後と、減少傾向を示してはいますが、相変わらず全国民の1%に相当するキャリアが存在することが明らかになりました。
HTLV-1の感染経路は、母子感染、性交渉による感染および輸血の3つが主なものです。
献血者の抗体スクリーニングにより輸血感染はほぼ完全に阻止されました。母子感染は多くが母乳を介した感染と考えられ、母子感染予防の取り組みが九州を中心に行われ大きな成果をあげています。この母子感染阻止の組織的な取り組みは2010年秋より全国的な枠組みで行われることになりました。この様な事情からHTLV-1感染症に対する総合的な対策の必要性が認識されてきています。 |
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HTLV-1感染の診断
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HTLV-1の感染診断法としては、ウイルスないしウイルス抗原の検出、ウイルス遺伝子の証明、抗体の検出等がありますが、この内、抗体検査は臨床的に最も広く用いられている診断法です。HTLV-1抗体の検査をする場合には、まず抗体スクリーニング検査(ゼラチン粒子凝集法:PA法、化学発光酵素免疫測定法:CLEIA法
等)を行います。
結果が陰性の場合、HTLV-1の感染は無いと判断できますが、必ずしも感染を否定するものではありません。陽性もしくは判定保留となった場合は、次のステップとして確認検査(ウエスタンブロット法:WB法)に進みます。確認検査で陽性となった場合、”HTLV-1に感染している”と判断できます。
ただし、WB法での判定保留(感染有りと診断できない)は
10~20%程度発生することが知られています。また、感染者であってもスクリーニング検査で陽性、WB法で陰性となることがあります。この際の補助検査としてプロウイルスを検出するPCR法や、採血時期をずらして再度検査を実施して確認する事が重要です。 |
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HTLV-1撲滅に向けて
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2011年2月19日に国立感染症研究所にて2010年度HTLV-1関連合同班会議が開催されました。表題は「HTLV-1撲滅に向けて」です。当会議での報告は"研究班報告"として7題、"ワークショップ:発症予防と治療薬開発に向けて"として17題、"ワークショップ:今後の母子感染対策について"として4題の内容でした。
本会議は今後のHTLV-1感染・関連疾患発症の予防や治療に関する総合的な対策を議論し、その基盤となるデータを開示し、それを実践することが目的として計画されたものです。HTLV-1感染予防のための教育・啓発や予防法、治療法の周知徹底といった医療及び行政面からの総合的な取り組みは、今後速やかに実践していく必要があります。今後も全国のHTLV-1に携わる研究者、臨床医、行政がHTLV-1撲滅に向けて、公開でその成果を発表し、総合的に議論し、取り組みを提示する場として継続されます。 |
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出典 |
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厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課 雇児母発1101第1号、平成22年11月1日通知 |
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厚生労働省研究班本邦におけるHTLV-1感染及び関連疾患の実態調査と総合対策研究班発行「HTLV-1キャリア指導の手引き」 |
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厚生労働科学研究費補助金研究事業 2010年度 HTLV-1関連合同班会議資料「HTLV-1撲滅に向けて」 |
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