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百日咳 2005~2007 (Vol. 29 p. 65-66: 2008年3月号)

  「病原微生物検出情報」Infction Agents Surveillance Report (IASR) Vol.29.№3(№337)2008年3月号より一部許可を得て抜粋転載

   
.    百日咳は百日咳菌(Bordetella pertussis )の気道感染によって引き起こされる急性呼吸器感染症である。百日咳菌は患者の上気道分泌物の直接接触や飛沫により感染し、麻疹ウイルスと並び高い感染力を有する。百日咳対策にはワクチンによる予防が最も効果的であり、ワクチンの普及により世界の百日咳患者数は激減した。わが国では1981年に現行の沈降精製ジフテリア・百日せき・破傷風三種混合ワクチン(DPT)が導入され、その後、患者数は着実に減少した。しかし、近年、ワクチン効果が減弱した青年・成人も百日咳に罹患することが明らかとなり、新たな対策が必要となっている。
 
症状:臨床症状は3期に分けられる.
カタル期(約2週間持続) ・通常7~10日間程度の潜伏期を経て、普通の風邪症状で始まり、次第に咳の回数が増えて程度も激しくなる。
痙咳期(約2~3週間持続) ・次第に特徴ある発作性けいれん性の咳(スタッカートといわれる連続の短い咳のあと息を吸う時にヒューと笛の音のようなwhoopといわれる音が出る。この発作が繰り返すことをレプリカーゼと呼び、しばしば、吐嘔をともなう。
・発熱はあっても微熱程度。息を詰めて咳をするため、顔面の静脈圧が上昇し、顔面浮腫、点状出血、眼球結膜出血、鼻出血が見られることもある。
・非発作時は無症状であるが何らかの刺激が加わると発作が誘発され、夜間に多い。
・合併症として肺炎の他に脳症(機序不明)があり乳児で注意が必要。
・米国調査では、致命率は全年齢で0.2%、6ヶ月未満児で0.6%
回復期(2~3週間~) ・激しい発作は次第に減衰し、2~3週間で認められなくなる。全経過は2~3ヶ月で回復。
患者発生状況
   百日咳は感染症発生動向調査における小児科定点把握の5類感染症であり、全国約3,000の定点から毎週患者数が報告される。年間患者報告数は2001~2004年に引き続き、2005~2007年も定点当たり1.00未満と、1982~1983年の約10分の1に減少しているが(図4)、周期的な流行の痕跡をまだ認めることができる(図1)。
百日咳は約4年周期の流行を繰り返すことが知られており、1999~2000、2004、2007年は流行周期に該当する。なお、2007年の患者報告数は2004年を上回っている(図4)。
患者増加傾向は年末以降も継続しているため(図1)、2008年の発生動向には注意が必要である。

 
   都道府県別患者発生状況をみると、定点当たりの患者報告数が2.00以上を示したのは栃木県と千葉県のみであった(図2)。2004、2007年にはわずかな流行が認められ、患者報告数が1.00以上を示した都道府県は2004年が13県、2007年が13府県であった。一方、2003、2005、2006年において患者報告数が1.00以上を示した都道府県はそれぞれ5、3、4県のみであったことから、周期的な百日咳流行は全国レベルで発生するものと推察される。

集団感染
   わが国では、百日咳集団感染は産科や小児科病棟などで散見されていたが(IASR26:64-66, 2005)、大規模な集団感染の報告はなかった。しかし、2007年に大学などで大規模な集団感染が発生した。大学では感染者が200名を超える大規模な集団感染事例にまで発展し、その対策には抗菌薬の投与(予防投薬を含む)、休講などの措置がとられた。2007年の集団感染事例は狭い空間を長時間共有するような施設で発生しており、このような施設では百日咳が容易に伝播することが指摘された。なお、集団感染を引き起こした百日咳流行株は各事例で異なることが判明し、各地域に潜在する百日咳菌が各々の地域で流行した可能性が指摘されている。
2007年に大学などで発生した大規模な集団感染。
 ・香川大学における百日咳集団感染事例
 ・高知大学医学部および付属病院における百日咳集団発生事例
 ・青森県の消防署における百日咳集団感染事例について
 ・愛知県宇和島市における百日咳の小流行について
 ・長野県における百日咳の流行
成人の百日咳
米国では1980年代後半からワクチン効果が減弱した青年・成人層での罹患者が増加し(IASR 26: 69-70, 2005)、2004年における成人患者は全体の27%となっている。わが国でも同様な現象が認められ、特に成人患者が2007年には前年の倍以上となった(図3)。しかし、0~3歳児における患者報告数に著しい増加は認められず、ワクチン接種による免疫効果が十分に発揮されているといえる。1982~2007年における患者年齢分布をみると、成人患者の割合は2002年から明らかに増加し、2007年では全患者の31%を占めている(図4)。ただし、わが国の百日咳患者は小児科定点より報告されているため、報告されない成人患者はかなりの数に上るものと考えられる。 臨床症状として 咳が長期に渡って続くが、典型的な発作性の咳を示すことなく回復する。リンパ球増多はほとんど認められず他の疾患との鑑別が困難。軽症で見逃されやすい。軽症でも排菌があるためワクチン未接種の新生児、乳児に注意が必要(死亡事例はいまだに認められている)。
 

百日咳診断の目安
成人患者は保菌量が少ないため、高感度な遺伝子検査が有用。ただし、一般的に行われているのは血清学的検査であり、主に菌体に対する凝集素価が測定されている。乳幼児では菌凝集素価を指標に診断されているものの、それが成人に適用できるかは不明。

感染研ではLAMP法による検出キットを全国のリファレンスセンターに配布し、検査の強化、拡充を図っている(IASR29:42,2008)

臨床症状14日以上の咳があり、かつ下記症状を1つ以上を伴う
  1発作性の咳込み
  2吸気性笛声(whoop)
  3咳込み後の嘔吐(CDC1997WHO2000)
実験室診断
  
発症から4週間以内:培養とPCR  4週間以降:血清診断(CDC,FDA Hewlett EL 2005)
  
1百日咳菌分離
  2遺伝子診断:PCR法またはLAMP法
  3血清診断(ペア血清での有意上昇を基本とする)

 
一般検査

  小児ではWBCが15000~数万以上に増加することがある。リンパ球優位で70%以上となる。
 赤沈やCRPは正常か軽度上昇程度。成人ではWBC増多、リンパ球増多が認められることは稀。

 

凝集素価
1)DTPワクチン未接種児/者
  ・流行株(山口株)、ワクチン株(東浜株)いずれか40倍以上

2)DTPワクチン接種児・者または不明
 
A)ペア血清
  ・流行株、ワクチン株いずれか4倍以上の上昇
 B)単血清
   DTPワクチン最終接種から2年以上
    ・流行株、ワクチン株いずれか40倍以上
   DTPワクチン最終接種から2年以内
    ・凝集原を含まないワクチン接種児:ワクチン株、流行株いずれ力、が40倍以上
    ・凝集原を含むワクチン接種児:対血清でいずれかの株の4倍以上の上昇
 
EIA法PT-IgG
1)DTPワクチン未接種児/者
  ・10EU/mL以上

2)DTPワクチン接種児/者または不明
 A)ペア血清
  ・2倍以上を基本
 B)単血清(参考)
  ・94EU/mL以上(BaugjlmanAL2004)
  ・100EU/mL以上(deMeIkerHE2000)

  臨床診断 臨床症状は該当するが、実験室診断はいずれも該当しない
  確定診断 1)臨床症状は該当し、実験室診断の1~3のいずれかが該当する
       2)臨床症状は該当し、実験室診断された患者との接触があったとき
弊社における検査について
  項目コード 項目名 方法 特徴
抗体検査 営業担当者まで 百日咳抗体(EIA) 酵素抗体法  
03114 百日咳抗体(BA) 細菌凝集法  
国立感染症研究所から推奨される抗原検査としてPCR法やLAMP法があげられております。当項目に関しては弊社では実施しておりません。詳細は地方衛研か感染研にお問い合わせください。
   
   
   
 
 
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