山ダ田幸授5ヤマトシユキ 検査結果の報告は数値で行われるものが多く、慣れないとその解釈は容易ではない。ただ、健康診断や人間ドックでは、異常なし、要精査などの判定が目安となる。病院の検査でも高い(H)・低い(L)などの判定が付記される。便利ではあるが、その判定の根拠をある程度理解し、数値により目を向けると、検査値とうまくつきあえるようになる。 判定の物差しになっているのは、基準範囲と呼ばれる値の分布で、大まかにいうと健康とされる人の95%が示す値の範囲である。正規分布(度数分布の山が左右対称)であれば真ん中あたりが多くの人が示す値で、端を示すのは少ないことになる。例えば、貧血の検査であるヘモグロビンの男性基準範囲は13.7~16.8 g/dL、自分の検査値が13.9 g/dLの場合、判定は異常なしとなるが、やや低めであると認識したほうがいい。このように基準範囲は自分の立ち位置を知るのに有用である。しかし、前回の値が仮に15.5 g/dLであったとしたらその変化は基準範囲内の変化であるが病的である可能性がある。このように個人として通常示す検査値という概念を持ち込むことが個々の健康管理には重要で、そのためには前の講演でとりあげる検査値の生理的な変動要因を理解しておくことが肝要である。 基準範囲は、あくまでも一見健康に見える集団の示す範囲であり、そこに入っているからといって放置するのは好ましくない場合がある。その際に用いるしきい値が臨床判断値と呼ばれるものである。例えば、LDLコレステロールの基準範囲上限は163 mg/dLであるが、動脈硬化性疾患の予防を主眼とした臨床判断値は140 mg/dLであり、この値を超えた場合、生活指導から投薬までを含む介入が検討される。その値は学術団体による調査研究によって定められた値で、健康集団から求める基準範囲とは成り立ちが異なる。この2種類のしきい値が混在して使われ、少なからず混乱が生じているので、その違いをしっかりと理解したい。 講演では、感染症の診断のように検査結果を陽性・陰性と判定する場合、それぞれの重みをどう解釈すべきかについても触れたい。主な研究領域臨床検査医学、血漿タンパク、アミロイドーシス主な著書監修・編集「標準臨床検査医学」(医学書院)「異常値が出るメカニズム」(医学書院)「今日の臨床検査」(南江堂)「臨床免疫学」(講談社)「プライマリケアのためのRCPC」(日本医事新報)「AAアミロイドーシス診療ファイル」(金芳堂)1984年 新潟大学医学部卒業1988年 新潟大学医学部付属病院検査部助手1992年 インディアナ大学医学部客員研究員1995年 自治医科大学臨床病理学講座講師1999年 順天堂大学医学部臨床病理学講座助教2005年 自治医科大学臨床検査部助教授2008年 自治医科大学臨床検査部教授2022年 自治医科大学臨床検査医学講座教授 俊自治医科大学医学部 臨床検査医学講座 教授検査結果の解釈~検査値とうまくつきあう~
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