第43回 再生医療の最前線
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オカヒデユキ これまで私は、神経発生の基礎研究を基盤に、元来再生能力が無いと言われてきた中枢神経系の再生に挑戦し続けてきた。最近では、損傷後の比較的早期にあたる亜急性期を対象としたiPS細胞由来神経幹細胞移植については、2021年6月末に開始し、1例目の手術を同年の12月に行った現在、さまざまな試行錯誤のもと、慢性期の脊髄損傷に対する更なる治療効果増大を目指し研究を行い、慢性期のラット脊髄損傷モデルでは、非臨床での検討を行い、医師主導治験を含む臨床への応用に向け着実に前進している。 また、iPS細胞技術を用いて、ALSを始めとする神経難病の病態解明と創薬研究を進めている。既存薬ライブラリーを用いて、比較的安全性の高い治療薬候補であるロピニロール塩酸塩(D2Rアゴニストで抗PD薬として既に承認されている)を同定した。次にこれらの所見に基づき、ロピニロール塩酸塩(ROPI)の安全性と有効性を無作為化比較試験(医師主導治験(第Ⅰ/Ⅱa相医師主導治験・ROPALS試験:UMIN000034954)により評価した。有効性については、1年の全投与期間において、ロピニロール塩酸塩はALS患者の全般機能(ALS FRS-R)および活動量が低下するのを有為に抑制した。また、1年間の1年の全投与期間において、ロピニロール塩酸塩はALS患者の病態進行を有為に抑制し、呼吸不全に至るまでの期間を有意に延長することが明らかになった。次のステップとして、同薬剤が抗ALS薬として承認される様に努力している。主な研究領域神経科学、再生医療、発生生物学、幹細胞医学主な著書「ほんとうにすごい!iPS細胞」(講談社)「脳をどう蘇らせるか」(岩波書店)「脳の再生 中枢神経系の幹細胞生物学と再生戦略」(朝倉書店)Iriki A, Okano HJ, Sasaki E, Okano H. 「The 3DStereotaxic Brain Atlas of the Common Marmoset」(Callithrix jacchus)(Springer)1983年 慶應義塾大学医学部卒業1983年 慶應義塾大学医学部生理学教室(塚田裕三教授)助手1985年 大阪大学蛋白質研究所(御子柴克彦教授)助手1989年 米国ジョンス・ホプキンス大学医学部生物化学教室研究員1992年 東京大学医科学研究所化学研究部(御子柴克彦教授)助手1994年 筑波大学基礎医学系分子神経生物学教1997年 大阪大学医学部神経機能解剖学研究部教授2001年 慶應義塾大学医学部生理学教室教授2007年 慶應義塾大学大学院医学研究科委員長2008年 オーストラリア・Queensland大学客員教授2015年 慶應義塾大学医学部長2017年 慶應義塾大学大学院医学研究科委員長 (〜2021)2022年 米国MIT客員教授慶應義塾大学医学部 生理学教室 教授ノ野 栄岡之授3基調講演「神経疾患の再生医療と創薬研究」

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