第40回 医療におけるAIの役割と未来
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合ダ田介 8東京大学大学院理学系研究科 教授カリフォルニア大学ロサンゼルス校工学部 バイオエンジニアリング学科 非常勤教授武漢大学工業科学研究院 非常勤教授 生物は多様である。多種多様な細胞の組織や構造、形態などと生理学的機能(増殖、代謝、分泌、分化、シグナル伝達など)の関係を調べることは、生物学や医学における主題のひとつである。特に近年では、たとえ同一のゲノムを持っていても細胞間に構造の相違が現れることが分かってきており、それに起因する生理学的機能の多様性を理解することが重要な課題となっている。しかしながら、現状の生物学・医学では蛍光顕微鏡・ピペットを用いて膨大な手間と時間が必要な目視・手作業で細胞の検出・単離がなされており、網羅的調査が困難であるという課題があった。本講演では、この問題を解決し、生物学・医学に新たな光をもたらすAI細胞選抜法[Nitta et al., Cell 175, 266 (2018)]を紹介する。本技術は物理学、化学、情報科学、機械工学、電子工学などの多岐に渡る分野の最先端技術を結集されることで、多種多様な細胞集団の細胞一つ一つを網羅的に蛍光撮像・高速識別し、リアルタイム深層学習を用いた解析結果に応じて所望の細胞を発見・選抜する基盤技術である。医学分野に展開した一例として、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こすアテローム血栓症の原因となる血液中の血小板凝集塊を血液から高精度・リアルタイムに識別、分取、濃縮することを可能とした。これは、従来の手作業では1日間かかる作業を1分間で実施(1400倍高速)したことに相当し、血栓症の診断・治療に新たな可能性をもたらした。本講演では、本技術がもたらす生物学・医学の新展開についてお話しする。主な研究領域バイオイメージング、光量子科学、物理化学、マイクロ流体化学ゴウケイスケ2001年 カリフォルニア大学バークレー校理学部物理学科卒業(首席)マサチューセッツ工科大学大学院理学部物理学科に移り、LIGOグループにて重力波検出器の量子強化について研究(LIGOは2017年にノーベル物理学賞を受賞)2007年 マサチューセッツ工科大学理学部物理学科博士課程修了(理学博士)。その後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校工学部電気工学科と生体工学科にて様々なイメージング法やレーザー分光法を開発2012年 東京大学大学院理学系研究科化学専攻教授2014〜2019年 内閣府革新的研究開発プログラム(ImPACT)プログラム・マネージャー2018年 AI選抜技術を事業化するベンチャー企業CYBO社を数名と共に創業2019年 カリフォルニア大学ロサンゼルス校工学部生体工学科と武漢大学工業科学研究院の非常勤教授 圭人工知能で細胞を発見! 〜生物学・医学の新展開〜

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