アレルギー疾患は食物抗原や環境抗原に対するIgE抗体の獲得を契機に発症する。乳児期早期のアトピー性皮膚炎の存在はその後のIgE抗体の獲得とアレルギー疾患発症のリスクと強く相関し、これらの児は、食物アレルギー、喘息、アレルギー性鼻炎など複数のアレルギー疾患を次々と発症することが多い。成人期になるとメモリー機能をもつ免疫細胞が増加するため、獲得したIgE抗体が消失することは期待できず、アレルギー疾患寛解の可能性は低下する。数千万人の国民が罹患し、今後さらに医療財政負担の増大が予想されるアレルギー疾患を将来的に減少させるためには乳幼児期のアレルギー疾患発症を予防することが喫緊の課題となっている。 本講演では、国立成育医療研究センターにおける以下の3つの取組みを中心にアレルギー疾患発症予防に関する新しい考え方を紹介する。①新生児期からのスキンケアと乳児早期発症アトピー性皮膚炎に対する積極的治療、②アレルゲンとなりやすい食物(鶏卵)等抗原の生後半年からの早期少量摂取、これらの一部の試みは、すでに、広く浸透しつつあり、近い将来小児のアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎、花粉症、喘息の発症率が順次減少していく可能性がある。③IgEを標的とした抗体医薬の発症予防応用、この取組みについては臨床応用に際し倫理的な諸問題を解決する必要があるものの、画期的な方策となる可能性がある。主な研究領域小児アレルギー学、マスト細胞生物学主な著書「Middleton's Allergy 第8版(分担)」「ブルーバックス:アレルギーはなぜ起こるか」「Chemical Immunology and Allergy, vol. 87; Mast Cells in Allergic Diseases(編集)」「改訂版フォトサイエンス生物図録(分担)」「内科学 第11版 Ⅲ. 消化管・腹膜, 肝・胆管・膵, リウマチ・アレルギー(分担)」「日本医師会雑誌特別号:アレルギー疾患のすべて(編集)」など1977年 東京慈恵会医科大学卒業 1986年 米国Johns Hopkins大学Research 東京慈恵会医科大学付属病院小児科Fellow1988年 国立小児病院アレルギー科医員1994年 国立相模原病院小児科医長1996年 国立小児病院小児医療研究センター・免疫アレルギー研究部部長2002年 国立成育医療研究センター研究所・免疫アレルギー研究部部長2003年 東京慈恵会医科大学小児科客員教授(兼任)2008年 東邦大学大森病院小児科客員教授(兼任)2010年 国立成育医療研究センター・副研究所2013年 日本アレルギー学会理事長(兼任;2017年7月まで)2015年 東北大学客員教授(兼任)2018年 国立成育医療研究センター・研究所長補佐サイトウヒサ斎藤久長4国立成育医療研究センター 研究所長補佐ヒロ 博アレルギー疾患発症予防への取組み
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