第36回 がん診療はこう変わった
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 近年の内視鏡技術の進歩は著しく、よりスムースに操作できるようになった上に高画質でより精細に観察できるようになった。それによりごく早期のがんも診断できる様になったため、現在では内視鏡で治療される症例が増加してきている。内視鏡治療に関しては、従来主流であったスネアを用いる内視鏡的粘膜切除術(EMR)から高周波ナイフを用いて病変を切除する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)へとシフトしてきている。ESDの最大の特徴は、病変を局注液で隆起させた後に周囲を切開し、その後に病変下の粘膜下層を剥離して切除するところにあり、これにより存在部位や大きさに捕らわれることなく自在に狙った範囲を切除できるようになった。その結果、例えば胃がんでは従来は2cmまでの病変しか治療対象にならなかったが、現在ではリンパ節転移のリスクさえなければ10cmを超える大型の病変でも治療が可能となっている。一方で、リンパ節転移の危険性がある腫瘍に対しては、腹腔鏡あるいは開腹による胃切除とリンパ節郭清が行われてきたが、転移リスクがあまり高くないないと判断される症例に対しては、センチネルリンパ節切除+内視鏡と腹腔鏡による胃全層局所切除が試みられている。上記は先進医療であり一部の医療機関のみしか実施できないが、少なくともESDによる治療は胃のみならず食道や大腸においても全国に普及してきており、病変を早期に発見さえできればより低侵襲に治療できる環境が整ってきている。主な研究領域消化器内科学、消化管腫瘍の低侵襲治療主な著書「高周波電源の設定と使い方」(日本メディカルセンター)「大腸ESDマニュアル」(南江堂)「胃癌治療ガイドライン」(金原出版)「食道癌取扱い規約」(金原出版)1987年 新潟大学医学部卒業 1990年 東京大学医学部第一内科医員1997年 東京大学医学部第一内科助手 東京大学保健センター非常勤講師併任2004年 東京大学大学院医学研究科消化器内科東京逓信病院内科医員(郵政技官)特任講師2005年 虎の門病院消化器内科部長(内視鏡部長兼任)2010年 慶應義塾大学医学部腫瘍センター教授 2008年〜2015年 低侵襲療法研究開発部門長Chinese University of Hong Kong, University of Salzburg, University of Chicago, Mayo Clinic, University of Calgary等のVisiting Professorハギナオヒサ慶應義塾大学医学部・医学研究科腫瘍センター 教授ヤ矢 直作久8内視鏡治療の進歩消化管の早期がん治療

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