第35回 転換期の高齢者医療
8/16

南 6 国民皆保険制度の下で半世紀余、「世界で最も医療にかかりやすい国」を実現してきた日本だが、21世紀に入る頃から、医療の崩壊が危惧されるようになり、保険財政も国家財政も深刻な状況の中、人口の高齢化と医療の高度化で医療費は年間1兆円の自然増を続けている。加えて、医療現場で使われる医薬品や医療機器の貿易赤字は年間3兆円にも上る。安倍政権の成長戦略にも期待したいが、医療のありかたを巡る国民の意識転換も不可欠だ。多くの人が「医療」を治療、診療の現場、すなわち「メディカルケア」ととらえているが、健康作りや病気予防など自助努力を含む幅広い保健活動すべてを医療=「ヘルスケア」ととらえないと将来は展望できない。「高齢者医療」は政策策定のあり方のモデルともいえる。 1977年、旧厚生省老人保健審議会で初めて高齢者の医療費が若年層の4倍と指摘されて以来、高齢者医療は費用の抑制が政策上の大命題となった。公的保険医療制度であるから方向は誤っていないものの、「高齢者の医療のあるべき姿」が置き去りにされた印象は避けられない。老化のメカニズムや高齢者特異の心身の問題を研究する老年医学の専門家の声を十分に反映することなく介護保険制度が導入され、医療経済的視点から終末期医療のあり方が問題になるなど、優先順位の倒錯が社会的に波紋を投げたことは教訓とすべきである。加齢で虚弱になった高齢者への医療は生活の質を最優先に考えるべき、という議論が老年医学の知見に基づいて政策論に上っていることを評価したい。意識転換は、すべての人に求められているといえる。主な著書共著「ゴルバチョフのソビエト」(読売新聞社)「超高齢時代全4巻」(日本医療企画)「今後の終末期医療の在り方」(中央法規出版)「司法精神医学第2巻・刑事事件と精神鑑定」(中山書店)1979年 日本医科大学医学部卒業1980年 ベルギー国立ゲント大学研究員1982年 日本医科大学助手(精神医学)1985年 読売新聞社入社2007年 読売新聞東京本社編集委員2011年 読売新聞東京本社編集局医療情報部長2013年 読売新聞東京本社編集局総務2014年 読売新聞東京本社取締役調査研究本部長(現職)内閣府、厚生労働省、文部科学省などの有識者会議委員を務めるミナミマサゴ読売新聞東京本社 取締役調査研究本部長 砂特別発言メディアから

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る